一般社団法人 農業経営支援センター

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本文は、支援センター会員の内部研修用に作成されたものですが、訪問者の皆様も「診断とはこういうものである」との理解を深めていただけると考えます。事例を中心にした分かりやすい内容です。第1章から5章にまたがりますが、6回ほどに分け紹介させていただきます。

<執筆者略歴>菊池 宏 昭和14年岩手県生まれ。37年福島大学経済学部卒。49年診断士登 録。岩手県中小企業振興公社入社。59年(有)菊池戦略経営相談室開業。平成6年岩 手県農業会議経営改善スペシャリスト委嘱。(社)中小企業診断協会岩手県支部理事。

     

第1章 財務諸表を中心とした診断前の着眼点

1.はじめに

農業法人の経営診断を開始する以前に、財務諸表を十分に精査してから正確な数値を確認する必要がある。何故なら、経理担当者もしくは関与税理士の経理処理が、実情とかけはなれたものになっている場合があり、正確な経営分析が困難となるケースが多々あるためである。具体的には次の事項については、特にチェックを要する。

2.損益計算書のチェック

(1)売上高
 売上高の計上方法については農協、産直、大型店などに出荷した場合、販売手数料を差し引いた金額を売上高として計上し、その反面、販売手数料を計上していないケースが見られる。
 こうした経理処理をすると売上高が実際より低く計上され、販売手数料はまったく計上されないため、営業利益額には変化はないものの、加工高比率、売上総利益率、機械投資効率、売上高対販売管理比率、経営資本回転率、固定資産回転率、従業者1人当たり売上高、従業者1人当たり加工高、労働分配率など実情とまったく異なる数値となり、正確さを欠くことになる。
 このため、実際の売渡単価、売渡量を把握し、販売手数料をいくら払ったかを確認することが肝要である。正しい経理処理と誤った経理処理の事例は次の通りである。

米(あきたこまち)の出荷状況

区分
売渡単価
売渡量
売上高
販売手数料
手数料
差引手取額
販売先
60kg 千円
トン
千円
60kg 千円
千円
農協
14,500
120
29,000
3,300
22.8
22,388
大型店
23,880
60
23,880
4,298
18.0
19,592
米菓製造業者
21,000
12
4,000
4,200
一般消費者
24,000
3
1,200
1,200
合計  
197
58,280
47,370

正しい経理処理 間違った経理処理
売上高 58,280千円 47,370千円
販売手数料 10,910千円  0千円

(2)人件費
 人件費には雇用労働費、雑給、法定福利費、福祉厚生費、役員報酬、事務員給与手当、販売員給与手当、退職金、賄い費などが含まれ、税法上では役員報酬、事務員給与手当、販売員給与手当、及びこれらに関連する法定福利費、福利厚生費は販売管理費に計上されている。
 大規模農業経営の場合はこれで問題はないが、大半を占める小規模農業経営の場合は、役員も現場で働くケースが多いほか、事務や販売を担当する従業員でも、実際はそのほとんどが現場で働くウエイトが高いため、小規模経営の多い岩手県では担当税理士と協議のうえ、人件費はすべて労務費として生産原価に計上している。

(3)販売手数料、支払手数料の区分の明確化
 損益計算書のなかには、販売手数料と支払手数料を混同しているケースが見られる。販売手数料は上記の例に当てはまるものであり、損益分岐点計算上、変動費となるが、支払い手数料は代金決済のための振込手数料などであり、固定費となるので、これについては総勘定元帳をチェックするなどして、明確に区分する必要がある。

(4)支払利息
 税法上では営業外費用となっているが、営業をするための借入金のコストであるため、販売管理費に計上すべきものである。

3.貸借対照表のチェック事項

(1)短期借入金及び長期借入金
 短期借入金とは1年以内に返済しなければならない債務であるが、往々にしてこのなかに長期借入金が含まれている場合があり、これを精査して短期借入金と長期借入金に区分を明確化しないと、流動比率や当座比率に大きな誤差が生じる。主な事例は次の通りである。

  1. 金融機関などから多額の借入金があるが、そのほとんどが1年に1回書換えをするだけで、現金の出し入れが伴わない場合は、その分の金額は長期借入金に計上し、短期借入金から差し引く。そうしないと資金繰計画が成り立たない場合が出てきて、実情に即しない診断結果がなされてしまう。

  2. JAバンクからの融資制度であるスーパーS資金は、5年以内に全額返済すべき借入金であるが、これを全額、短期借入金に計上しているケースがある。この場合、1年以内に返済しなければならない金額のみ短期借入金とし、残金は長期借入金に振り替える必要がある。なおスーパーSのSはショート=短期の意味であるが、必ずしも1年以内に返済すべき制度融資ではない。

  3. 金融機関等から10年返済の資金を導入したり、農林漁業金融公庫からスーパーL資金を導入した場合、全額長期借入金として処理しているケースが多い。これらの長期借入金でも1年以内に返済しなければならない分があるので、その分については短期借入金に振り替える必要がある。なおスーパーLのLはロング=長期の意味である。

(2)支払手形、買掛金、未払金、未払費用及び長期未払金
 農業経営では支払手形を振り出すケースはほとんど見当たらないが、中には支払手形が計上されているケースが多く見られる。その内容を見ると農業機械などの固定資産を購入して支払手形を振り出しているのがほとんどである。支払手形は仕入商品、材料費を支払手形を振り出して決済する場合だけ適用されるものであり、農業機械などの固定資産は未払い金に振り替えなければならない。また支払手形決済期限が36ヶ月など1年超えに及ぶものについては、長期未払金として固定負債に振り替えなければならない。
 この処理をしなければ、農業機械などの固定資産取得のための支払手形が買掛債務と混同され、支払勘定回転率が大きく狂ってくる。
 また、未払金とは1年以内に決済しなければならない費用、及び固定資産などが該当するが、中には肥料購入代金を本来の買掛金ではなく、未払金として計上しているケースもある。
 さらには費用の未払分は未払費用、固定資産の未払分は未払金としているケースもある。未払費用とは決済金額が確定していない項目であり、厳格な経理処理をしている中堅や大手企業ではよく見られるが、小規模農業ではほとんど発生しない。具体的には給与の支払いが前月26日から当月25日までの計算で支給金額が確定しているが、支給日は翌月5日の場合は未払金に計上する。しかし、当月26日から翌月25日までの支給金額はまだ確定していない(翌月1日から25日までの残業手当などはまだ未定)が、当月26日から当月末までの分については確定しているので、その金額は未払費用となる。支払利息なども同様である(翌月になって予定以上の返済が出来て支払利息が減額されることもあるため)。
 しかし、一般の農業経営ではこうした厳密な経理処理をしていないので、一般には未払費用は発生しない。

4.通年従業者数の計算方法

農業経営の場合、繁忙期には多くの臨時雇用をするが、閑散期には常用従業者のみで作業を行っているのが大半である。この場合、年間平均の従業者数を算出する方法は次の通りである。
 常用従業員については1人は1人として計算するが、臨時雇用の場合は総労働時間を2,000で割った数字が通年雇用者数としている。その計算根拠は次の通りである・・・週労働時間を40時間とし、これに年間52週を掛けると2,080時間となる。しかし、年末年始休暇や夏休みを2週間とし、計80時間を差し引くと2,000時間となる。
 総労働時間の計算方法は、臨時雇用従業員に支払った人件費を平均時給で割る。例えば平均時給が700円、臨時雇用従業員に支払った年間人件費を8,000千円とすると、総労働時間は8,000÷0.7=11,429時間となる。これを2,000時間で割ると11,429÷2,000=5.7人と算出される。
 したがって、この人数に役員数及び常用従業員数を加えた人員が年間従業者となる。ただし、役員でも名前だけで経営に従事していない人については計算に入れない。また、役員の中で家族役員であっても平日は他に勤務し、土日だけ農業に従事している人は週16時間、年間832時間と計算し、これに年末年始休暇や夏休み休暇を考慮すると約800時間となり、通年では0.4人として計算するのが妥当である。

5.適用する経営指標と修正法

経営分析結果と外部比較する経営指標は、TKCを適用している。ただし、TKCの経営指標の場合、支払利息は営業外費用に計上しているため、これを販売管理費に振り替えているほか、販売管理費の中に計上されている役員報酬及び管理部門の人件費は労務費に振り替え、指標そのものを加工して使用している。また、2005年版のものからは売上規模別の経営指標が公表されているので、その規模に合わせ経営指標との比較が可能である。

 
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