会員・部会の研究報告

部会の研究報告

農商工連携における地域ブランドの確立と留意点
地域ブランドづくり部会リーダー  加藤寛昭(関東ブロック)

本稿は、私が全国中小企業団体中央会(以下全中)の「連携組織における地域資源活用マニュアル~地域資源の活用を通じた組合等の活性化に向けて~」に寄稿したものに加筆・修正をしたものである。今回全中様のご了解を得て当センターのホームページに掲載するものである。
なお平成17年より食料産業クラスター事業の専門委員((財)食品産業センター)として、クラスター事業及び地域ブランドの確立・推進事業に携わる。この間「地域資源活用による商品開発と地域活性化」等についての講演活動を展開中。

1、はじめに

通称「中小企業地域資源活用促進」においてその中小企業の範疇に、農業協同組合等農林水産漁業(以下農業)関係の協同組合が法認定の対象に加えられたこと、及びいわゆる農商工等連携関係2法案等により、従来縦割りであったことにより活用し難かった各種支援施策の運用が、(独)中小企業基盤整備機構を窓口として整備、一本化されたことにより、現場レベルで対応し易くなったことは画期的な出来事である。
連携事業としては、従来からいわゆる異業種交流から始まり、更に発展して文部科学省の「知的クラスター創成事業」、経済産業省の「産業クラスター事業」、農林水産省の「食料産業クラスター事業」等が設定・導入され推進されてきたが、前述したように省庁縦割りの施策として導入・展開が図られてきた。
従って今次の農商工の連携は、はじまったばかりであるが期待するところ大である。我われ全中及び都道府県中央会は農業の特殊性を理解しながら、今まで“未体験”である農業の分野といかに連携をとりながら推進すべきかを食料産業クラスターにおける“ものつくり”とその“地域ブランド化”という一連の流れを通して考察する。

2、地域ブランド形成とその目的

(1)地域ブランド二つの要素―地域ファクターと商品機能

図表-1は地域ブランド形成に必要な要素や過程を模式図にしたものである。これからも分かるように地域ブランドには当然ながら地域の要素と商品機能の2面性がある。地域の持つイメージが高ければ高いほど消費者からの親しみが得られ、また商品の品質が高ければ高いほど信頼が得られ他との差別化を実現し易くなる。実施にあたっては①地域イメージ重視→製品品質の訴求、②製品品質の訴求→地域イメージの活用といった二つの戦略的アプローチが考えられるが、いずれにしても地域のイメージを構築するには時間がかかることを念頭に入れておくべきである。

(2)地域ファクター(地域イメージ)の総合的活用。

小規模な事例が多い食料産業クラスターにおいては、農産物といった限定した物にだけでなく、固有の食文化、景観、風土、伝統芸能、自然との触れ合い等といった総合的な地域資源に着目して、更にそれらの差別的優位性を明確にして、消費者とのコミュニケーションの充実を図ることが効果的である。マーケティングでいうプロモーションとは一線を画した“もてなし”の心が感じられる関係コミュニケーションの確立が望ましい。具体的には交流会やグリーンツーリズム、田圃の生き物調査、農家レストラン等がある。留意することはいわゆる観光ビジネス自体のブランド化ではなく、地域を知ってもらうこと、やっていることの事実を見てもらうことにあり、あくまで農をベースにした地域全体での地域ブランド形成を目指すことにある。「一生懸命やっているその努力している姿が見えないと、だれも応援しようとおもわんやろ」という馬路村の東谷望史氏の言葉は重い。

(3)商品機能における4つの保証対象。

商標には、①出所表示機能、②品質保証機能、③広告機能という三つの機能が主なものとして挙げられる。そのうち、②の品質保証機能とは同一の商標をつけた商品はいつも一定の品質を備えているという信用を保証する機能である。更にその保証対象としては、イ、安全性の規準、ロ、衛生基準、ハ、生産方法の規準、ニ、食味(品質)の規準といった四つの基礎的規準を挙げることができる。ここであえて基礎的規準という背景は、例えば、安全性の確保といっただけではもはやブランド構築に求められる“差別的優位性”は確保できないからである。安全性の保証はいまや食品においては当然のことである。従って安全性の規準を例にとれば、原料としての農産物に関しては後述するように原料カルテを作成して、どこの誰がどのようなつくりかたをしている(慣行農法か有機栽培か特別栽培か)か、GAPの導入状況、トレーサビリティーの導入有無、残留農薬の検査体制、それらの検査結果の公開による確認の有無等々の提供ができる体制が必要となる。産地によっては原料段階において他産地との差別化優位性を確保し地域ブランド化を実現する為に、第三者の機関による独自の“原産地呼称制度”に基づく基準の確立と厳守が導入、義務化されているところも見られる。

(4)身の丈にあった安全性の確保。

昨今の偽装表示問題等についての多くは、自社で運用規準を決めていながらそれを自らが破ったことにより、せっかく長い期間をかけて構築した信用を一瞬にして失いブランド力を失墜さてしまったといえる。この結果、安全性確保や環境への配慮等について、今まで以上に行政等による規制と監視、自主管理体制の強化が要求されることとなった。しかしながら、食料産業クラスター等においてはその構成メンバーは生産者を初めとして小規模な企業が多く人的、費用的な要因でHACCPとかISO等の導入による管理体制の確立は難しい場合がある。そのような場合いたずらに大きなシステムの導入を指導するのでなく、5Sの徹底や二者認証により全体の品質管理の底上げを実現するなど事業規模を考慮した対応の提言にも配慮が望ましい。

(5)「出会いと相互理解の場」の確保←全中・都道府県中央会に期待するところ

図表-1から分かるように、地域資源活用による地域ブランドの形成のステップとしては、大きくわけて①出会いと相互理解の場、②商品開発、③ブランド化がある。このステップの中で、最も時間と苦労を要するのが第一ステップの①出会いと相互理解の場の確保である。現状では農商工連携において、いかにして農業分野からのテーマを吸い上げるかが課題の一つとなっている。行政や関係団体を通じての広報や説明会による周知徹底は図られているが、農業の現場においては、今回の法律の支援策を知らないという声が多く聞かれる。
  全中・都道府県中央会は、従来農業分野ではあまり活動実績がなくそのアプローチの仕方やネットワークの構築は未知の分野ではあるが、テーマの掘り起こしと相互理解の場の確保としてのコーディネート事業支援活動の積極的な展開を期待するところ大である。
  具体的に農業の分野へのアプローチ策としては、まず農業の分野で活動をしている都道府県所属の普及指導員との連携が考えられる。一番農業の現場に近いところで活動をしているので事業化のシーズや現実に農産物を資源として製品開発に取り組んでいる生産者団体や生産者の存在を知っていると考えられる。地産地消の掛け声の下、各地の農産物直売所での加工品の売上高は女性の企業家によるところが大きい。それらの開発指導・支援をしているのは普及指導員が担当をしているのが現状である。
  次に各地域のJAに代表される組合や農業関係の団体等へのアプローチが考えられる。更に食品産業協議会や食料産業クラスター協議会等におけるコーディネーターとしての活動も期待されるところである。

3、地域ブランド化

食料産業クラスター事業においての究極の目的は、農商工連携により地域の資源を活用してのものづくりと、地域ブンランド化により地域経済の持続的な活性化を実現することにある。しかしながら単に地域名と商品名を結合した商標だけで地域ブンランドの確立と錯覚していると見受けられることが多い。従来ブランディングはマーケティングの一環として論じられているが、ここではブランドの概念を一層明確にするため、あえてマーケティングとブランディングを別のテーマとして位置づける。マーケティングはプロダクツ(製品)、プライス(価格)、プレイス(流通)、プロモーション(販促、広告)といったいわゆる4Pを対象とした、製品のゆりかごから墓場までの一連の経済活動といわれる。それに対してブランディングとはこのマーケティングを前提条件としたうえで、いかに他との差別化を実現して差別的優位性を確保して価格プレミアムを実現するかにあると定義つける。また、その実現のためには原料や品質に関して希少性や物語性を訴求するのが効果的と言われる。

(1)ブランドの語源。

まずブランドの語源としてはいくつかあるが、昔ノルウエーで自分の羊に焼印をおして他人のものと区別したところから、ノルウエー語の「焼印」に由来するといわれている。(焼き菓子からとか牛のお尻に焼き鏝をおして目印にしたという説もある。)

(2)ブランドの目的は他との差別化を実現すること。

このことから分かるようにブランドとは本来他の類似品と見分けるためのものである。従って見分ける必要のないものにブランドをつける意味はない。ブランドをつける目的は消費者に他の商品やサービス(以下商品)と比較して優っていることを分かってもらうためと言える。従ってブランドをつけるからにはそれの裏づけとなる品質が高いという保証がなければならない。この保証があってはじめてお客の信頼を得ることが可能になる。この高い品質こそが差別的優位性と呼ばれるものである。ただ単に商品やサービスに名前やマーク(商標)をつける形だけがブランド戦略ではない。
これを確保するための一連の企業活動をブランディングと呼ぶことにする。ブランドをつくる究極の目的は、お客が①商品のよさを認識し、②商品や企業に高い信頼を寄せ、③購入して消費、使用することに優越感をおぼえ、④企業の理念や哲学に感動と共感を覚えてもらうことにある。
コーディネーターもしくはアドバイザーと呼ばれる者はここに留意して勇気をもって関係者の意見調整を図る必要がある。

3、農商工連携における主な留意点

われわれ(全中・都道府県中央会)が、農商工連携支援事業に携わるにあたり農業と工業の違いや問題点をあらかじめ整理して認識・留意しておくことは効果的である。その上で我われは単なる調整役でなく、該当プロジェクトのトータルコーディネーターとして、関係者の出会いの場の設定から目標に向けての意識付けと動機付け、ものづくり及び地域ブランド化にいたる全てのステップにおいて主導的な立場でプロジェクト推進を図りたい。

(1)農の特殊性に起因する問題

図表-2農業と工業の違い
  農業 工業
生産 原則年一回 通年生産
生産拠点 土地は移動できない 最適な場所が選べる
生産管理 お天道様次第 人為的・科学的管理
保存・在庫管理 鮮度重視、全量保管 ジャストインタイム
品質 バラツキが大きい 均一が前提条件
労務 家族労働 雇用
投資回収サイクル 5~10年とながい 3年くらい

図表-2は農と工の相違の主なものを対比したものである。詳細な説明は省略するが、地域農産物を主原料としてものづくりを推進するに当たって、工業側はその原料の調達に苦労することが多い。例えば、①農産物は天産品であり品質のバラツキが大きい、②同様な理由で計画していた量が必要な時期に調達できない場合がある。③季節によって価格の変動が大きく工業的コスト管理が難しい等、品質規準や供給の不安定性があるからである。これらのほかにも工業と比較して農業には、自分のリスク(金、物、技術・ノウハウ等ソフトに対する投資等)において新成品開発や販路開拓に挑戦するといったマーケティング意識に欠ける点を指摘できる。

(2)構成メンバーの“言語”の違い

存立基盤の異なる異業種との連携によるクラスター事業においては、メンバー間での“言語の違い”を理解、克服しておく必要がある。特に農業との連携においては例えば、商工でいう品質と農業での品質の理解には大きな開きがあることが多い。例えば原料に関していえば、食品工業ではその製造品質の均一化を実現するために、決め細かい原料の品質規格・規準を設定しその管理を厳しく行うが、生食用を主とする農業においては、原料の品質規格・基準等に置いては、大きさとか見栄えを主体にした等階級のみである。食品産業向けの原料規格、基準は通常設定がないのが特徴である。従って製品開発に当たっては後述するように原料カルテのような目で見える形での目標品質の提示による確認が不可欠となる。このようにコーディネーターはプロジェクトを円滑に推進するために、関係者のことばの違いを早く掴み共通言語化する工夫が必要とされる。

(3)業界団体が主体の連携事業における留意点

なお、特定の業界団体が主体となった連携事業の場合においては、業界の実力者の発言の声が大きくなり、メンバー間での自由な発言が封じられるケースがある。このようなケースでは途中でメンバーが抜けていきプロジェクトそのものが継続できなくなる場合もある。このような場合コーディネーターとしては、非公式の場を通じて意見の調整を行い全体としての意思統一を図ることが望まれる。

4、問題点への対応

3-(1)は農業の特殊性により生じる問題点ではあるが、必ず起こりうる問題として事前に関係者で対応策を講じておくことが必要である。

(1)最大の課題―原料の安定調達への対応

(財)食品産業センターの調査によれば、調査対象の加工食品メーカーの55.5%が原料調達において契約取引をおこなっていると回答している。さらにその理由としては74.1%が「安定調達」をあげている。次いで差別化製品のために、安全な原料調達、高品質原料の確保がそれぞれ40%台と続き、加工食品メーカーがいかに安定調達ということに苦労しているかがわかる。
  通常生産者との原料購入契約には面積契約と数量契約があるが、特定の狭い地域だけで生産されるこだわり原料のような場合は面積契約で、市町村をまたがるような広域で栽培される作物のような場合には数量契約で取引されることが多い。食料産業クラスター事業では地域が限定される場合が多く、また参画する生産者の事業規模も小さいことが多く面積契約で原料の独占的購入を行い、同時に原料面での差別的優位性を確保し価格プレミアムの実現を図ることになる。しかしながらこの場合生産者には、契約数量の30%位を大目に作付けして、不作の場合における供給不足がおきないような対応がとられる。同時に価格については通常の青果物が市場の競りで“値をつけてもらう”のとは異なり、年度始めの契約に基づく通年固定価格での取引が多い。

(2)原料カルテの作成による原料規格の厳守

ものづくりが進んで本格的生産に入ったとたんに、事前に提示のあったサンプルと違う品質の原料が納入されたり、必要な量が納入されないため、中間原料の歩留率が大きく下がり製品コストの上昇を余儀なくされたり、予定通りの製品が製造・販売できなくなるケースが多い。これを避ける為には、主原料についてはあらかじめ原料カルテ(図表―3参照)を作成して実需者と生産者で確認をとっておく事が効果的である。このことによりスムーズな原料調達や安全性の確保等が可能になる。特に将来、事業規模が大きくなった場合を想定して、その際の原料調達の可能性や不足する場合の代替産地の探索も済ませておくことが肝要である。
なお農商工連携事業の場合、原料カルテの作成は実需者が作成して、それを生産者と両者で確認をして保管・運用することが多い。

原料カルテとは、原料名、品種・学術名、その原料に期待する機能はなにか(色、糖度、酸度、香り、繊維質、形状・・)、主産地、生産者、生産量、トレーサビリティー導入の有無、GAP、栽培方法、購入量、価格、リードタイム、不測の場合の代替産地の有無、あるいは標準品・上限品・加減品の写真添付などからなる原料属性・原料特性等を一覧にした管理表。原料規格基準とは異なる)

図表―3 原料カルテ

5、おわりに

食料産業クラスター事業等の連携事業におけるコーディネーターの役割と期待は大きい。農水省においてもその育成に力を注いでいるところである。
我われの守備範囲である食品産業においては、すでに何らかの形で農業との係わり合いを持っているところが多く、われわれにとっては全く関連のない分野ではないともいえる。また業界こそ違うが我われはすでに助言・指導に当たっては実績がある。それに反して、農業においては生産指導こそあるがこの種の活動を担当する機能を持つ組織は少ないしあってもその活動に限定がある。ここに我われの活動範囲を広げる機会が存在する。

参考・引用をさせていただいた資料・文献等
1、農業ブランドはこうしてつくる   後久 博 ぎょうせい
2、食料産業クラスターと地域ブランド 斉藤 修 農文協
3、ブランドにしよう地域食品(パンフレット) (財)食品産業センター
4、ブランド綜合研究所HP ブランド総合研究所