一般社団法人 農業経営支援センター

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戦略的事業計画書の作成

会員 松崎 一海 <九州・沖縄ブロック長>

 

1.はじめに

農業経営における事業計画書の必要性が多くなってきた。今までの認定農家や任意団体が、農業経営の主体者して事業経営が行える様に、将来の法人化(5年以内)が義務付けられている。その中で計画的な法人化を進めるために「事業計画書の作成」が重要な位置付けを占めて来ているからである。すなわち、従来の特定の届けのための事業計画、融資や助成金目当ての計画内容ではなく、企業としての農業経営の実効性を担保する事業計画の作成が必要となって来ている。既に、関係機関の中では、この事業計画書の重要性を再確認した計画のあり方を見通した戦略的事業計画の策定の準備作業が始められているところも多い。

当九州・沖縄ブロックでも、具体的な事例として前年度は2件の農業関係の事業計画について診断事例を行った。その一つは、既に農業法人である組織の特定事業に関する業計画書の経営適合性診断であった。もう一つは、農業認定者の農業経営診断に沿って、今後の事業計画書の作成に関する策定作業を行った。

何れの場合も「これからの農業経営〔事業〕をどうするのか」と云う事業展開を個別農業者と農業法人の具体的な課題に沿って考えるものであった。

そこで、今回は、その診断した具体的内容は別として、このような体験を通して感じた農業における「戦略的事業計画書の作成」に関してその進め方と具体的なフォーマットについて考えてみたい。

2.戦略的事業計画書の意義

(1)事業計画書の解釈

一口に農業における「事業計画」と云っても幅広い範囲の内容が含まれるのが現状である。そのために、農業経営における「事業計画書」においても、誰が何のためにその作成を依頼したのか、作成、活用の目的、作成する関係者利害などによってことなってくる。従って、作成の視点によって事業計画で取組む範囲、期間、命題、作成手法、まとめ方、フォーマットはことなってくる。それだけに、単に「事業計画の作成」と云っても複雑な問題を含んでいる場合が多い。

差し迫って問題となるのが、農業経営における「事業計画書」の作成手順である。「事業計画の作成」をどの切り口から入って行くのかと云う問題である。「事業計画」の作成にあたり、現状の課題を明らかにすることが必要な場合がある。そのために、@「経営診断」から入るのか、Aいや、この問題は既に明らかになっているので、これからどうするのかと云う考え方(戦略)や具体的項目を構築するとことから入るのか、B単に目先の案件の承認を取りために「事業執行」の側面から書いて行くのか、いや、現状も戦略も課題も分かっていないでの、全部@ABを全部やるのかと云った問題が発生する。いずれの場合も大変な作業量となることは確かである。

ここでは、難しい事業計画の定義は避けて、事業計画の実効性を高めの農業経営における「事業計画」の作り方(考え方)について、上記のAの過程に当てはまる「戦略的事業計画書の作成」について考え方に述べてみたい。

(2)事業計画には戦略が必要

「事業計画」がいずれの形をとるにしても、戦略が必要である。一般的に、金融機関からの借入れ申請、公的資金の活用申請(助成金)、各種の申請書類などは、一定の様式が決められている。従って、申請のための事業計画の書き方まで口をさしはさむことは出来ないが、この場合でも、基本的にはその作成にあたっては、該当事業をどう進めるのかが明確に戦略的にストーリー化されていなければならない。その点では、申請者が形式的になぞっているケースが非常に多いのではないかと思われる。すなわち、計画自体の戦略的視点に立ったストーリー作りに欠けたものが多いように思う。そのことは、この計画書の内容を「どう実行して行くのか」を口授してもらえば分かるだろう。実行すべきことの足らなさに多くの気付が出てくる。 多くの場合、無意識的に何とはなしに「事業の進め方は分かっている」のだが、「これで良いのかどうか分からない、問題はまだまだあるよう気がするが、その問題が何なのかが分からない」と云ったケースが非常に多い。戦略の明確化と問題点の把握がしっかりと抽出されていないケースである。分からないまま走って失敗しているケースも多いようである。

農業者の事業を、戦略的に検討することによって、「強み」や「機会」(チャンス)を活かすことができるばかりでなく、新たな気付きをもって事業の補強することが必要である。その結果、その後の変化に柔軟に対応して実効性を担保することになる。

3.戦略的事業計画の作成段階

戦略的事業計画は、@事前準備としての戦略を戦術に落し込み。Aそのための実施項目を計画書に具体的に書き込む二つの段階がある。この作成過程を縦軸と横軸から考えてみるとよい。縦軸では、事業計画作成に当たって考え方、戦略の構築と組立てを行う工程である。云ってみれば事業計画のストーリー作りである。この段階では、戦略の組立から実行項目の設定、数値目標まで具体的内容までを大局的視点から網羅して検討される。横軸はこの戦略内容を具体的に書き込んでいく作業である。具体的実施項目、目次、計数目標を、指定された様式に書き込む作業である。この二つの関係で「戦略的事業計画」は作成されなければならない。この作業を通してはじめて、縦軸の「戦略」と横軸の「戦術」が繋がってストーリー化かされることになる。

(1)縦軸の戦略構築のプロセス

準備作業としての縦軸の戦略構築の作成プロセスは、次のような手順で行っている。この事前の手順を踏まえて、気付きと仮説検証を繰り返しながら、事業内容を詰めて行くのである。

  1. 現状分析をする。

  2. 環境を取巻く要素を組立てる。

  3. 具体化のための仕組みを作る。

  4. 誰が何を学び実施するかを決める。

  5. 取組む評価事項と目標を設定する。

  6. モニタリング(数値の達成度合いを見る)をする。

  7. 次の仮説により再構築する。

具体的にはワークシートを使って下記の手法を使って行う。

  1. SWOT:認定農家・法人の「強み」、「弱み」、「機会」、「脅威」を抽出する。

  2. BSCへの展開:「強み」と「機会」(チャンス)を主要要素として組合せ、バランス・スコアカード(BSC)の四つの視点(財務、顧客、仕組み、人材)に並べて戦略を組立て、四つの視点があストーリー化できるまで練り直す。

  3. 「あるべき姿」:その過程で、「あるべき姿」と「事業課題」を抽出する。

  4. 仮説:その「事業課題」の解決のための「成功要因」を仮説する。

  5. 計数目標:仮説に基づいた実施項目の設定とその計数化を図る。

  6.  

このように、この過程は、「戦略」を「戦術」に落し込む作業である。この場合、ワークシート等を使って行った検討内容を「事業戦略策定書」としてまとめるおくことベターである。

(2)横軸の「事業計画書」の作成

先に述べたように、縦軸が事業戦略考え方に基づき戦術まで落とし込む作業であるのに対して、横軸では事業計画にそれを書き込む作業である。 しかし、戦略や考え方をこの事業計画書の中でくどくどと記述すると、計画書の焦点である「何をどの様に実行するのか」と云う具体的項目がぼやけてくる場合が多い。 そこで、実際には、事業計画書の作成は、具体的な戦術内容を中心に記述することとなる。従って、実際の検討過程のなかでは、戦略を組み立てはあくまでもワークシートを使って事前準備として行い(必要に応じて「事業戦略策定書」としてまとめる)、横軸の「事業計画書」ではその具体的な内容を記述するものとなる。

4.事業計画書のフォーマット

以上のような検討を経て、具体的に「戦略的事業計画書」としてまとめる。その場合の標準となるべきフォーマットはどうあるべきであろうかを考えてみよう。 先程から述べているように、「事業計画書」には戦略的な視点を盛り込むことが、実効性を担保するために必要であるが、この概念を取り入れたフォーマットで適当なものは見当たらないのが現状である。だが、農業経営における「戦略的事業計画書」のあり方を具体的に検討する場合のたたき台として、岩手県農業塾で使われているものがある。   これをただ台にとして、上記のような事前準備で検討した内容を生かせる作成フォーマットを検討することも一つの方法である考える。

その場合、基本的な目次構成は下記の通りと考えている。ただ、注意する点として強調したい点は、
@「事業計画書」の中には、戦略的なストーリーを明確に表現すること。
A農業経営の事業計画書で良く記述されている耕作面積等の明細は、事業計画書のなかでは必要最低限に抑えて(ポートフォリオを検討できる程度)、詳細な資源内容(作目、面積、機械設備等)は基本台帳として別にまとめて記述する。
B現状を理解するために簡単な自己診断表を添付するなどの検討が必要であろう
〔岩手県農業塾の「経営戦略計画書」参照〕。

「戦略的事業計画書」の目次案

  • はじめに

  •  
  • 事業内容

  • 経営理念(価値的目的)〜どんな経営をしたいのか〜

  • 戦略の組立と具体的数値


  • @利益目標(利益計数目標)〜いくら利益を県あげたいのか〜
    A経営環境への対応戦略〜環境変化をどう認識し対応するか〜
    B顧客への対応戦略〜顧客をそう認識してコミュニケーションするか〜
    C推進する仕組みの構築〜その仕組みは何か、実行性があがるものか〜
    D従事者が実践する事項〜そのために社員は何をするのか〜
    E改善項目〜どの項目を回改善するのか〜

  • 品目別売上・利益計画(年次別)

  • 課題改善対策(年次別)


  • @経営環境変化への対策
    A顧客への対応策
    B仕組み作り対策
    C従業員が実践する対策
    D改善課題対策

  • 付表


  • @基本台帳
    A経営自己診断

5.おわりに

以上述べてきたように、事業において戦略的発想に基づいた事業計画書の必要性はますます高まってきています。そのことは、農業および中小企業の事業計画作成の体験から実感することができる。経営の成功は、その組織の限られた資源と、めぐり会った機会(チャンス)をどう活かすかを、「戦略によって決まる」(選択する)と云っても過言ではないだろう。本稿が「事業計画」の必要性が高まった今日、実効性を担保する「事業計画書」を考える一助になれば幸いである。

 
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