一般社団法人 農業経営支援センター

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おいしい牛肉は健康にもプラス

−肉屋、消費者、コンサルタントとして美味な牛肉追求−
会員 松澤 秀蔵 <関東ブロック長>

 
1.霜降りであることが第一か

私は50年余り肉屋を体験したが(注:筆者は東京で食肉店(株)松金を経営し、同時に昭和33年から中小企業診断士でもあった)、戦後の貧しい食生活から、豊かな飽食の時代と言われるまでの時の流れとともにあった。肉屋を引退したあとも「良い食品作りの会」の全国の会員諸兄や、岩手県岩泉町の日本短角種の生産者とその関係者、「食品製造業の信頼性評価基準の作成研究会」「消費者の視点で見る買い研究会」(コンサルタント仲間の会)で、共に調査し、学ばせていただいた。また毎日のようにお会いする50人余りの主婦たちの声などを参考に、我が国の現在望まれている牛肉について書かせて戴こうと思う。

食材としての牛肉=牛を仕事として扱う者にとっては、生活を支え利益を稼いでくれる商品でもある。業者は商品として牛肉をみているが、同時に消費者でもあり、消費者として見る眼も持っていることを忘れてはいけない。それがプロとしての責任を果たす上で大切な条件なのである。プロである生産者や業者は、消費者のために牛肉を生産し、販売をしていることを強く認識して欲しい。消費者に喜んでいただけてこそ、再度買ってもらえるのは誰にでも判る当然の理である。

かつてプロと言われた人たちは、それぞれ鑑識眼を持っていて、お客様のための肉の評価を、商売のための評価と共にしてきた。しかし、規格による大量取引をする米国に倣って規格が定められ、判定されて上場されるようになると、それに頼る部分が多くなってきた。この規格による判断が主流を占めるようになったことから、見た目の良くなる肉の生産に、研究も生産指導も走って行った。牛肉の規格は商品流通の便法であるのに、食品としての価値判断基準のごとく誤解し、鑑別力の衰退を招いた。

「霜降り」であることが、牛肉の質の第一条件であり、かつ最大条件とされてきた。そのために、健康に役立つおいしい肉作りより、健康的でなくても霜降りを求めて、おいしくない牛肉が増え始まってから40年になる。

2.コンセプトの3要素実現へ

おいしい肉は、栄養的にも優れている。このことを知ったのは45年ほど前であった。さらにその後平成4年に、食肉が癌を増やしてきたとされる調査結果がある中で、波動チェックという検査で、一般市販の肉が癌を作り、免疫力を下げストレスを高めるなどという検査結果が発表された。これは「おいしくて栄養があっても問題だ」と思って、私の店の肉類を全てその検査をした研究所に持ち込み、検査をしてもらった。

結果、おいし肉作りをしてきた私たちの肉は癌を防ぎ免疫力を高め、ストレスを癒してくれるという検査結果をいただいた。この検査結果を追認するように、現在ではおいしい肉作りをした牛肉には、癌や老化を防ぐ抗酸化力のあるカルノシンが出来てくるし、脂肪を効果的にエネルギーとして使用できるように働く、カルニチンなどのぺプチドも出てくることが判っている。

脳梗塞、脳出血、狭心症、心筋梗塞、心不全、大動脈破裂等の病気で亡くなる人の数を合わせると、癌で亡くなる人の数より多くなる。その原因となるのが高脂血症である。その最大の原因が、飽和脂肪酸=肉類の脂肪である。国民の35%もの人たちが高脂血症である。高齢社会になってきたにも構わずに、肉業界の大部分の人たちが相変わらず「霜降り肉」を良しとして、お客様に勧めるような品揃えをしている。

関西から西の方では、お客様のお気持ちを聞き取り、それを大切にしてお客様に役立ち、喜んでいただける肉の取り扱いに努力している方たちもいる。しかし特に関東では、販売業者の霜降り指向が顕著である。おいしくなくても、お客様の健康にマイナスであっても、霜降り肉が売りやすいという思いが先立ち、「お客様のために役立つ肉を勧める」というプロの自覚を欠いている。このことは、牛肉の生産者にも通じることだ。

3.おいしい肉作りの基本

牛肉の問題は、高脂血症との関係だけではなく、前記のように「おいしい肉」と健康との大切な関係がある。大学の先生方もこのことの大切さに注目してくださった。昨年度家畜改良センターを中心に、5大学と諸研究センターなどの先生方10人が委員となり、食肉の官能評価のガイドラインが作成された。

家畜改良の方向を、コストからおいしい肉作りの方向へ変えるための第一歩が進められた。私も肉屋として、官能評価について気付いたことを話すように声を掛けていただき、あらかじめプリントで内容を先生方に配布して、30分ほど簡単に説明し、2時間半にわたり先生方からの質問に答えることでお手伝いをさせていただいた。

このことを生産者の方たちも、流通の方たちも理解し、おいしい肉作りの大切さを知ってほしい。おいしい肉作りは、生産から店頭までの全てのひとたちの総合作業だからである。生産者にとってのおいしい肉作りの課題は、@飼育期間中も出荷時の輸送中も牛にストレスを与えないこと、A動物性の飼料を与えないこと、B肉がおいしくなる飼育期間を守ること、C屠殺場においては、ストレスを与えないようにすること、D枝肉の冷却の温度管理を適切にしてコールドショートニングを起こさないこと・・・などがある。また流通には、適切な熟成が求められる。

4.短角の独自生産の例もある

消費者は嗜好も経済力も家族構成も、その健康状態もさまざまである。したがって「消費者が求める牛肉はこれだ」と一つを示すことは出来ない。だが誰にでも共通して望むのは、おいしくて健康を守ってくれる肉であることは間違いない。消費者も生産者や業者も、 霜降りの牛肉が良い肉・おいしい肉と思い込んでいる人たちが多いのが現状であるが、霜降り肉も大半は肉の味が落ちた脂の味だけの肉になった。

健康上の理由で赤身を求める人は、牛肉の愛好者の中にもおよそ3分の1はいると推察される。赤身のおいしい肉をと思いながらも、購入する場所がなくて買えないでいる人たちが多いのも現実である。その大きな原因に、赤身でおいしい肉が極めて少ないことが上げられる。赤身でおいしい肉を売ろうとする業者が少ないことが、生産者においしい肉作りに取り組むことを尻込みさせている。

赤身はおいしくないものと決めて、おいしい肉の味が作れるような飼育、運搬、屠殺と枝肉の冷却、熟成等の必要な作業をほとんどの生産者も業者もしらないのだと思われる。規格が上になることが関心事で、おいしい肉の価値を市場では認めてくれなかったのだから、関心がなかったのは当然である。しかし、関西でスーパーを経営する(株)大近では、お客様の「赤身でおいしい肉が欲しい」との声に応えて、おいしい肉作りをした岩手県岩泉町の短角牛の肉を発売した。好評であったが、預託制度に縛られている産地では急増する注文に間に合わせることができず、大近では自家飼育を始めた。今では今泉町の短角牛を仕入れるほかに、450頭規模の短角牛を飼育するまでになっている。

5.ニュージランドでも注目

アメリカでBSEが発生する1月半くらい前に、短角牛の東京の購入先に問い合わせの電話があった。「おいしい短角であれば良いのか、ただの短角でよいのか」を聞いたら、「おいしい短角が欲しい」と言う。それで岩手県山形村の短角を売っている東京のスーパー明治屋さんの多摩川の店を教えた。3日後、ニュージーランドの牛肉生産者の団体から申し入れがあり、「実は短角と自分たちの肉と食べくらべてみた。たしかに短角のほうがはるかにおいしい。自分たちの肉も赤身であり、日本への輸出をもっと増やしたいのだがが、日本の短角と競争したばあい差がありすぎる。ニュージーランドの肉はどうしたらおいしくできるか」ということで、おいしい肉作りのことを3人で2時間半、熱心に質問をうけた。

その後にアメリカの牛肉が輸入停止になったので、おいしい肉作りの必要がなくなったことと思うが、輸出国でもおいしい肉作りを熱心に考えている。わが国の生産者が現在は、おいしい肉作りについて有利といえるが、その差はわずかである。1日でも早く消費者のための肉作りと販売に取り組んで欲しいと思う。それが生産者や販売業者にとっても、繁栄への道であるからだ。

(おいしい肉作りは、http://homepage2.nifty.com/matsuzawasyu/ 参照)
おいしい肉作りの講演、診断・指導に喜んで応じます。
(本稿は肉牛新報社の厚意により雑誌「肉牛ジャーナル」1月号に執筆した原稿の一部を掲載したものです。)

 
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