一般社団法人 農業経営支援センター

会員の研究
部会の研究
部会の研究


連載B 「指導日記から」

−法人化に向けた簿記・経営計画等の留意点―
中西 俊(九州・沖縄ブロック)

 最近、法人化に向けた相談が2,3あるので、以下にまとめてみました。この他に農業法人協会ホームページの農業関係者の皆様⇒農業法人制度改正のポイント、農業生産法人報告書を参照してください。

また、この期間中は、農業経営支援センター九州・沖縄ブロックでは、農業経営に関する相談ブーツも設けています。お気軽に声をかけて下さい。

T.複式簿記の記帳開始について

 

複式簿記による記帳が行われていない場合は、受け取った現金から、生活費をはじめ、新聞代や日常的に使用する事務用品その他の消耗品の購入にあてることが多く、手元現金が不足すれば、随時、農協等の口座から現金を引き出す。この場合、事務用品その他の消耗品などの領収書はあっても、生活費や近所親戚との交際に費やした金額はわからないことが多い。この状態では、生活に費やした金額と経営に費やした金額が区分できず、また、それらに費やした金額の原資が農産物などの売上により受け取った現金なのか、農協等の口座から引き出した現金なのかわからないので、複式簿記では記帳できない。
このように家計と事業会計を分離するのが、複式簿記のメリットの一つである。そこで、複式簿記で記帳を開始するには二つの方法があるので、状況に応じて使い分ける。

1.原則的方法
(1)現金・小切手による収受は全額を農協・銀行などの口座に入金すること。

(2)支払い原則として小切手または振り込みにすること。消耗品など日常的に小額な
支払いは、小口現金勘定を設けて、これを相手勘定科目として記帳すること。

(3)法人化前の生活費や諸税、国民健康保険、年金、生命保険など事業ではなく、個人に係るものについては、店主勘定(生活費)を相手勘定として記帳すること。

これらに関して、法人化以後は原則として給与から支弁するものであるが、往々に、法人の会計から支出する場合がある。この場合の処理は、仮払いとして、後日、報酬支払い時または期末決算時に相殺する。

2.応用的方法

(1)売上金など受け取った現金を農協等の口座に入金しないままに支払いに当てる
など経営者にありがちな場合の処理・・・

  1. 売上金など現金を受け取った場合は、領収書控えを残すことは絶対的に守ること。
  2. 領収書控えにもとづき「現金/売上」「店主/現金」と記帳して、受入れた現金は、店主が事業から借りているものとする。
  3. 手元現金を経費の支払いに当てた場合は、「経費/店主」と記帳して店主が事業に貸したもの、または先に事業から借りたものから相殺したものとする。

(2)経営者間の交際費、遠方への旅費交通費など法人の報酬や個人事業の生活費の中から支弁するには多額になるもの、あるいは旅費交通費、交際費との区分が不明確なものの仕訳・・・いくつか方法があるが、一つの方法では一旦、「仮払い(店主・経営者)」としておき、後日、領収書や計算書などが判明した時点で「旅費交通費/仮払い」「交際費/仮払い」と仕訳する。なおかつ仮払いに残額があれば、「店主勘定/仮払い」または「報酬/仮払い」と仕訳する。
領収書がなくても、実情は旅費交通費や交際費の場合は、税務署に相談する。

(3)経営者のスーツやコートなどは生活費として処理することも、必要経費として処理することも認められる。
家族の被服費その他の費用については、生活費として処理することも、また、事業運営に関係する限り必要経費としても認められる。

U.個人の資産負債を法人に移す際の留意事項

1.基本的には個人の資産と負債の金額を等しくして法人に移す。

(1)土地・農地・山林については、法人に移す方法と個人にそのまま残す方法がある。
その判断の分かれ目は、いずれの場合の相続税額が多いか少ないかによる。

(2)貸し家がある場合は、増改築や新築の際に借入を行うかどうか、個人で借入する場合は返済できる個人収入があるかどうか、などによって判断する。

(3)農機購入の際に政府資金(農林漁業金融公庫)の借入がある場合は、圧縮記帳して  いるがどうかによって、評価額が変わる。

以上は、基本方針を決めた後に、税理士と相談すること。

2.資本金額の決め方

(1)農機・建物・設備など現物出資の形で資本金額を決める方法と最小金額で設立した後に、個人の資産と負債の金額を等しくして法人に移す方法がある。

(2)法人設立後、運転資金が不足すると法人名義で借入するか、経営者個人が法人に貸すか、いずれかになる。前者の場合、法人が最初の決算前、或は赤字決算の場合は、借入れが難しくなるので、向こう1年間のおよその収入と支出の金額とその時期を予想して資金繰りが苦しくなった場合、経営者の個人資金を法人に貸付けるなどの対応処置を予め
決めておくこと。

V.定款作成の留意事項

 

司法書士に依頼する前に、予め決めておかなければならない事項・・・

1.事業目的

  実態と将来への希望によって決まる。

2.決算期

税理士に一任すると、税理士の都合だけで決められるので、予め費用収益の期間が対応するように決めておくことが望まれる。費用収益期間の対応が難しい場合は、作目によって、前期の費用と今期の収益が対応するように決める。

3.取締役

@取締役は、1人でも登記可能だが、その1人の取締役が倒れる場合を想定して、最低2人を決めることが勧められる。

A取締役人数は、それぞれの農家の実情によって異なるので、一概には言えない。

B取締役は従業員からはずれるので、労働基準法の適用外になるが、労災と雇用保険
の適用を受けることができる。

C代表は、申請によって労災の適用を受けることができるが、雇用保険は適用されな
い。

W.就業規則の原案の作成は必要

従業員数が10人を超せば就業規則が法律上必要であるが、10人を超さなくても、次の理由によって就業規則の原案の作成は必要。

@募集の際、就業規則に含まれる労働条件を予め決めておかなければならないこと。

A従業員数に関係なく、採用時に就業規則に含まれる労働条件などを記入した労働契約書を手渡すことが法律上義務づけられていること。

B所定就業時間、季節別休日数、残業時間割増率など勤務割当や賃金計算に必要な事項が就業規則に含まれていること

X.農業経営における基本事項

1.最低限必要事項

子や孫の代までも見据えた経営計画の必要性・・・
農業経営は将来を見据えて、計画をたてなければならない。それは10年後ではなく、20年後、30年後、子や孫の代までも見据えることが必要である。子や孫の代のことまでも責任が持てん、というのは経営者失格である。昔ならばいざ知らず、現代のように経営環境の変化が激しい時代であるからこそ、子や孫の代までも見据えた計画を立てなければならない。

2.努力目標的事項

地域の将来を見据えた経営計画の必要性・・・
農村は姥捨て山になってはならないし、日雇いに明け暮れる者が溢れるようであってはならない。若者が安定した給与のもとに農業に周年従事して、後継者がいなければならない。また、農村に入る希望者があれば、これを受入れ、就業の場、あるいは生き甲斐の場を提供できなければならない。それだけでなく、それぞれの農村に伝わる祭り、芸能などの農村文化は後代にも伝えられる豊かな農村にしなければならない。
このような農村は、異業種法人の農業参入では成し遂げられない。なぜならば、利益追求一本やりであるから、彼らに農村を任せたら、農繁期だけ雇用するが、農閑期は解雇することになり、農村には日雇いに明け暮れる者が溢れることになる。
豊かな農村に成し遂げるには、農村の農業者自体が自分の農業だけでなく、地域全体を背負って立つ覚悟でもって経営計画立案に臨まなくてはならない。

Y.経営計画とPDCA

1.基準値の適切性の管理と時間管理

経営計画を策定するには、基準値として単位面積当りの収支(損益)計画と単位面積当りの作業別労働時間計画を使用する。 (注:基準値は農業の部門別に農水省、地方農政局、農事試験場などのHPで「経営収支統計」「原単位分析」として公表されている「経営指標」を意味する)
他方、農業においても絶えず技術革新は進んでおり、資材単価の低下や農業機械の作業能率の向上や維持費の低減が図られている。また、作業者は経験期間に比例して習熟効果により、作業能率は向上する。
したがって、単位面積当りの収支(損益)計画や作業別労働時間計画などの基準値は、経営計画の実施過程においては、基準値として適正か否か検討しなければならない。すなわち基準値の適切性の管理が必要である。
この基準値の適切性の管理には、基準値を中心線とし、実績生産費や実績労働時間数をプロットする管理図法を用い、基準値改定の必要性の判別には二項分布を用いることが簡便である。
また作業者の就業時間内の活動内容は、大きく分けて、打ち合わせ、作業の準備、移動、圃場の確認、本作業、運搬、移動、作業の後始末、報告などに分かれる。それぞれ作業実施のために必要な前後の活動ではあるが、利益に直結するのは作業実施時間だけであるから、作業実施を除くその他の時間に含まれる無駄な時間や遊び時間を縮小し、少ない時間を有効に使うという時間管理が必要であると言える。
これには、作業準備から後始末に至る諸活動にかかる最低必要項目を著わしたマニュアルの整備とともに、各自、本作業以外に費やす時間の短縮に努めることが望ましい。これを促すには、作業準備から後始末に至る諸活動にかかる時間を記録し、各自の就業時間に占める本作業以外に費やす時間比率をグラフ化して全員に公開するとよい。

2.作業マニュアルと指導

後継者が親について学ぶという親子相伝においてすらも、後継者が作業の真の目的を理解するには時間がかかるのが常識である。まして、大規模経営において他人を雇用する事態になれば、「経営者について学ぶ」のは基本ではあっても、雇用者数が2人以上になると教える方も教わる方も苦労と困難がつきまとうのは避けられない。
そこで圃場準備から収穫、後始末、調整、出荷に至る栽培・出荷工程の全工程について、それぞれの作業の基準となる事項を明記したマニュアルがここでは有効である。
農薬計画や施肥計画については、「栽培ごよみ」として、インターネットでモデルが公開されている。ところが雇用者を教育する上で、大切なことは、作業そのものもさることながら、作物の生育状態の適否を判断する能力であり、圃場周辺の観察能力である。また、気象条件から生育状態を予想する能力である。これを育てることが、経営者の負担軽減になり、さらなる規模拡大につながることになる。
したがって、これらの能力を育成することにつながるマニュアルの整備と、これによる指導が必要となる。

 
Copyright (C) 2006 農業経営支援センター. All Rights Reserved.