一般社団法人 農業経営支援センター

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連載@ 「指導日記から」

―複式簿記への壁・・・後継者は父親のお金の出し入れの全貌がつかめない―
会員 中西 俊 <九州・沖縄ブロック長>

某月某日

「今は、青色申告ですが、複式簿記ではないので青色申告控除額は10万円です。これを複式簿記で記帳すると控除額は65万円になります」

K氏

「65万円の控除額は大きいですね。以前、複式簿記をやりかけたことがありましたが、親父が現金を受け取ったとき、そのまま支払いに当てたのか、何かに使ったのか、受け取った現金がどこに行ったかわからないので、複式簿記では記帳できなくなって止めました」

「現金で受け取るのは直売所ですね。直売所に頼んで農協の口座に入れて貰うことはできますか。税理士が関与すると、支払いは必ず小切手を使うように指示されます。現金で支払った場合は、支払った額は別途の収入があったものと見なされて、税金を余分に払うことになります

K氏

「それは現金を受け取った場合は、必ず領収書を切りますので、その控えがあります。支払いの場合は、相手の領収書があります。しかし、お金を受け取った、支払ったことはわかっても、相手勘定がわからないのです。親父にいくら言っても、わかってくれないのです」

「わかりました。こうしたらいかがですか。領収書の控えがあっても、受け取ったお金が何処にあるかわからないときは、入金(借方)の勘定名は『店主貸』、貸方は収入、売上の場合は相手氏名や分類名を付記します。そして、後日、農協口座に入金したことなどお金の在り所がわかった場合は、借方に農協口座名、貸方は同額を『店主貸』と記帳して相殺します」
「領収書があっても、どこのお金を支払いに充てたかわからない場合、借方は、支払い内容によって記帳します。相手勘定(貸方)は『店主借』にします。後日、農協口座から引き出したお金で支払ったことがわかれば、借方は、『店主借』、貸方は同額を農協口座勘定で記帳します。」
「この場合、『店主貸』ではなくて、『現金勘定』を使う方法もありますが、『現金勘定』にすると、現実に存在しないお金が、『現金勘定』に残る可能性がありますので、『店主勘定』の方が良いと思います」

K氏

「今の仕訳を紙に書いてください」

 

―説明―
この例の場合、父親は直売所や作業受託など領収書を切って現金で受け取ったお金は手元に置いておきます。生活費は言うに及ばず、近所や友人との交際費、旅行費用などは、手元のお金を使います。集金があれば手元のお金から払います、そして、手元のお金が多すぎると考えたら、農協の口座に貯金します。何か大きな出費があるときは、農協の口座残高を見て、不足すれば借入れします。これで過去、何十年間やってきて、息子の結婚費用も賄ってきたのです。と言うのも、今まで複式簿記ではありませんので、経験的に把握した金額の手元現金を置いておけば良いのであって、そのお金の出し入れを記録する必要はありませんでした。

ところが、後継者が複式簿記で記帳しようとすると、生活費、近所や友人との交際費、旅行費用等に使った金額がわからない。支払ったお金と農協口座の出し入れとの関係もわからないので、記帳のための仕訳がわからなかったのです。

このような場合、『店主勘定』を使うと仕訳ができます。年末には『店主貸』と『店主借』を相殺します。すると、黒字経営の場合は、『店主借』の残高が消えて、『店主貸』の残高が残ります。赤字経営の場合は逆になります。いずれの場合も、年末の貸借対照表に『店主貸』または『店主借』が記載されますが、これは翌年に繰り越しされません。

法人の場合は、『店主勘定』はなく、経営者個人と法人の間に貸し借りが起こる場合があります。この貸し借りの期末残高は翌期に繰り越しになります。(以下連載Aに続く

 
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