一般社団法人 農業経営支援センター

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連載A 「指導日記から」

―経営計画は、収益を確実にするための計画―
会員 中西 俊 <九州・沖縄ブロック長>

某月某日

3月から、普及センター地域係の某氏が立ち会っています。この対話は、立ち会い初日の出来事です。

「Kさんは、これまで、24haもの田んぼで米、麦、大豆を主体に栽培し、野菜は合わせて1,4ha 、これを主としてお父さんと2人で賄ってこられました。
ところが今年は、野菜を17.7ha、昨年の10倍を超える面積に拡大しました。すると、昨年の春、今年に備えて、2人常雇いとして採用して、昨年の農繁期は2人につきっきりで仕事を教えてきました。それでも今年は何人を常雇いとして雇用すればよいのか、見当がつきませんでした。また、雇用しても給料を払えるだけの収益があがるのかどうかもわかりませんでした。
こういうわけで、経営計画の策定を頼んでこられたのです。」

K氏

口にはださないけれども、「その通りです。」とうなずく。

「優良担い手農水大臣賞の受賞者は、水田面積50haを超える経営者が目立つますが、   米、麦、大豆を主に栽培するのであれば、50haであろうと、100haであろうと毎年、同じことの繰り返しですから、予想経費や予想収益、そして労働時間さえも頭に入っております。だから、これらの数字を紙に書いた人はいないと思います。
所得目標を上げるにしても、米、麦、大豆を主に栽培するかぎりにおいては、栽培面積を拡大しなければ不可能です。その栽培面積を増やすにしても、米、麦、大豆を主に栽培する限りにおいては、収益、経費、労働力すべて現状を基準にして考えれば予想できるのです。」

K氏

「実は、私も米、麦、大豆を主に栽培していた今までは、経費や収益、労働時間などの計画値は経験的に把握しておりますので損益計画は書いたことがありません。労働時間計画を作っても、しなくてはならない仕事は他人を使わないと決めているからには、夜遅くなってもしなくてはならないので、作る意味がないのてす。」

「そうでしょうね。ところで、あなたがお父さんと一緒に米づくりを始めた頃を思い出してください。見よう見まねとは言っても、かなりお父さんに質問されたのではないでしょうか。」

K氏

「それは聞きました。でも、聞いても聞いても、わからないと言いますか、やればやるほどわからないことが出てくるのです。それで、親父もうまく答えられないのです。記録があれば、それを読むと納得できることもあったのでしようが、記録はまったくありませんでした。」

「今のお話は、あなたから、息子さんに引き継ぐときに同じことが起きますよ。」

K氏

「あっ、そうですね。言われてみばその通りです。」

「息子さんにだけではありません。人を雇ったときも同じことが起きます。息子さんはもちろんのこと、赤の他人の従業員でも、あなたと同じ眼で見、あなたと同じように考えてくれることが望ましいのではないですか。」

K氏

「それはそうですよ。従業員がわたしと同じ眼で見、同じように考えてくれたら、こんな良いことはありません。わたしはとても楽になります。」

「その従業員が経営者と同じ眼で見、同じように考える仕組みが経営計画なのです。経営計画とは、単なる数字の計画ではありません。従業員を1人前にする計画も入ります。 別の見方をしますと、経営面積24haのうち、自作地は4haですから、残り20haは小作地です。小作地はそれぞれの地主さんが、それぞれのやり方で、或は、土壌分析をしないままに化学肥料を多用された結果、窒素、リン酸、カリのいずれかに偏った圃場、有機質が不足した圃場、地下水位が高い、或は水はけが悪い圃場などいろいろありますね。」

K氏

「あります。」

「それらの圃場も、他と同じように肥料を施されているのですか。」

K氏

「いいえ、それは程度によって違いますが、変えている場合があります。」

「規格合格率や収量もそれぞれ違うでしょう。」

K氏

「ええ、違うと思いますが、データがないので、よくわかりません。」

「それでは、施肥内容を変えても、それが正しいかどうかはわからないですね。」

K氏

「それはそうです。」

「そこです。経営計画というのは、損益だけではないのです。損益は結果ですが、結果を生み出す過程が正しく行われていなければ、良い結果は生まれません。良い結果を生み出すために作るのが経営計画です。」

K氏

「でも、1年だけで良い結果がでるとは限りません。」

「そうです。だからこそ、経営計画が必要なのです。経営計画というのは、計画した年の、翌年の計画であれば翌年の収益を確実にするための計画です。だから、収益を実現するために必要であれば圃場別の施肥計画や管理計画をつくらなければなりません。問題のある圃場が良い圃場になるには、2年や3年かかるのは普通ですね。
2年や3年ではできないこともあります。ところが、2年目、3年目の施肥内容を決めるのに、前年や前々年の施肥内容や出来上がりの品質と収量がわからない、或は、あいまいであれば、正しい2年目、3年目の施肥内容を決めることはできませんよね。頭の良い人でも、施肥内容は記憶していても、出来上がりの品質や収量まで記憶できません。それは人間の記憶力の限界を超えていると思います。」

K氏

「なるほど、経営計画というのは、収益を確実にするための計画なんですね。わかりました。」

 

 
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