一般社団法人 農業経営支援センター

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土地利用型農業の生きる道

―50haへの拡大と特徴ある小規模経営―
会員 中西 俊 <九州・沖縄ブロック長>

T.農業経営の大規模化

1.経営規模面積の次の目標は50ha

新農政の経営安定策の対象品目は、米、麦、大豆、でんぷん用馬鈴薯、甜菜の4品目にすぎない。つまり、この政策によって当該4品目の自給率が維持できるかどうか、その効果を見定める。その結果によって、その他の品目についても経営安定策を策定するかどうか考える・・・というのが行政当局の考えではなかろうか。

ところで、政府があげている大規模化の最小経営面積について考えてみよう。欧米との価格差を縮めることを狙うならば、経営面積を欧米に近づけなければならない。欧州では平均だか、最小だかわからないが50haという数字がある。豪州では70?80haである。米国はわからない。集落営農の20haというのは、はじめから欧州や豪州なみというのは無理であろうから、とりあえずはその半分程度からはじめよう、20haが達成できれば、次は吸収や合併によって50haに目標を引き上げると考えたのではなかろうか。現に水田地帯では各地に少ないながら、認定農業者による50ha経営が存在している。また20haを全面イネ作としたばあい、農水省の経営統計では年間所得が推定856万円であり、1世帯とちょっとの所得目標にしか過ぎず、集落営農が目指す所得の維持・拡大にほど遠い。やはり50haが次なる目標ではないか。

とすると、認定農家の4haの意味は、小規模経営農家であっても他産業並みの所得を得られる仕組みを構築する上で、経営規模拡大の意欲を問う一里塚との解釈が聞こえてくる。

2.小規模農家が発展するための3方向

これに対して農業者の反応はいかがであろうか。全国農業新聞や日本農業新聞は、政府の広報機関として旗を振っている。政府の発表は、いかにも順調に進行しているかのように思わせる報道発表がなされている。しかし、インターネット新聞JANJANの小池編集委員の報告にも、同じJANJANに投稿される「新農民とパパの農業奮戦記」の酒井多美男氏の報告にも集落営農の話は出ない。私と交流があるが、いずれも遠く離ればなれに住んでいる3人の農業者の経営面積は、1人が24ha、他の2人は4ha前後で、この3人の周りにも集落営農の話はあっても進んでいない。農水省平成19年3月12日現在の調査によれば、県内に685の集落営農組織があるが、出荷販売経理の一元化がなされた組織は435、約三分の二を占めている。このギャップは一体何だろうか?

県内の某農協の幹部でもある大学の後輩は、新農政は農村社会をぶっこわす側面があると消極的意見を唱えている。同じように地域農業の指導者層の人で反対論を唱えている人もいる。彼らは零細農民の切り捨てであると解釈しており、現実の打開が求められている。打開策は、農水省の施策やそれに基づく担い手づくりマニュアルに明確に示されている事項の学習が先決である。そのためには、地域ごとに説明会や検討会などの促進組織とリーダー作りから始め、意見交換やアンケート調査において各農家の進みたい方向を明確にする必要がある。
小規模農家や兼業農家の役割は、マニュアルで3つの方向が示されている。その骨子は、
(1)農地を担い手(認定農業者または集落営農組織)に貸し地代収入を得る。
(2)集落営農の構成員として経営に参加する(賃金収入を得る)。
(3)@高付加価値農業で収益を高める(無減農薬・有機米を生産=通常の4倍の価格)。
A複合経営(各種野菜のロテーション栽培と加工食品化)
B観光農業(例えばイチゴやトマトのハウス栽培と加工品販売、観光果樹園)
以上3つの方向のいずれか、または組み合わせの方向を選択して、小規模農家として地域での役割を果たす農業ビジネスの展開が望まれている。ときに有志による共同化も必要になる。

他方で5ha程度を経営している2人の知人の言い分は、「自分は経営できているから、これで良い。他人の分まで口出しするつもりはない」という。24haを経営している知人が農協青年部に所属し、青年部の集まりがあるというので、部会長に私が「経営規模拡大の必要性について話をしよう」と持ちかけたことがあるが、まったく関心を示してもらえなかった。これらの人たちは認定農業者として集落営農組織に参加しない方向で、自ら歩む将来計画を確立しているからと判断される。

U.1ha未満の小規模経営農家を維持するには

基本的に土地利用型農業が、生き残る道はあるのだろうか。価格競争では米国・豪州の経営規模の違いから、中国や東南アジアとでは人件費の違いから到底勝負にならない。国内では干拓地などで米国・豪州の経営規模と匹敵できる農地はあるが、限定的である。また将来、経営規模が50haになったとしても、圃場一枚当り面積の狭さは基盤整備後であっても、米国・豪州とは比較にならないので、今後は非価格競争力でなければ生き残れない。

1.競争力の強化

非価格競争力と言えば、安心・安全・健康志向、鮮度・美味さ、環境保全志向などが考えられる。
(1)安心・安全・健康志向は消費者との交流で信頼感を醸成
この志向は、米国・豪州産の農産物でも同じことを訴えている。中国の農産物は近頃、ポジティブリストに引っかかった事例があって輸入量は減少しているが、これを扱っている商社は商いのネタであるから、それこそ命をかけても中国側を指導するであろう。だから、やがては輸入量も復活するだろう。
これでも日本の農業は米国・豪州そして中国に打ち勝つ可能性は残されている。それは、
@消費者が安心・安全・健康の栽培を目で見ることが出来る、
A時には体験することもできる、
B消費者と生産者が交流することができる・・・
これらの「眼で見る、体験できる」ことは信頼感を育むことにつながる。多少の価格差よりも、信頼感がある方を消費者が選ぶであろう。なんと言っても、消費地と生産地が近いことを有効に活用すべきである。

安心・安全・健康志向の極めつけに「自然栽培」、あるいは「自然農法」と言われる無農薬無肥料栽培による栽培法がある。無農薬無肥料栽培と言えば、土壌の肥料成分を取り上げるだけで補給しないので「収奪農業」と言われ、焼き畑農業のように年数が経過すると収穫量が減少して圃場は見捨てられると考えられている。しかし、日本海沿岸に見られる砂丘に松などが根付いていること。太古の昔、地上に植物が繁茂していない状態から、人間が何も手を加えていないのに、植物が繁茂するようになったこと。これらは土壌中に植物が繁茂するに足りる肥料成分があること、あったことを示している。ということから、原理的に説明できる。

ただし私自身、有機栽培よりも厳しい条件で栽培する「自然栽培」、あるいは「自然農法」の実態を検分していないので、これ以上言うことは難しい。

(2)鮮度・美味さの追求とマーケティング
野菜や果物は、収穫後、美味しさを引き出すのに最も適した時期というものがある。魚や肉類でも屠殺後、美味しさを引き出すのに最も適した時期というものがある。加工食品でも製造後、美味しさを引き出すのに最も適した時期というものがある。

これらについて、輸入農産物は国内産に比べれば劣勢にたたされることがはっきりしており、国内農産物は全般的に有利であることは間違いない。この有利性を積極的に活用して、小売店と生産者が提携して地産地消コーナーが設けられ、生産者自身の手による直売所があり、「朝採り野菜」がある。

後述するように、これらの販売機会は、小規模経営農業者にとって有力な所得確保の手段であるが、集落営農や大規模経営にとって一定の所得を得るには有効だが、これだけで他産業並みの所得を得られるものではない。
ただし、次に述べる事例がある。京都の某料亭だか、割烹だか忘れたが、京野菜を使った料理をお客に出すのに、仕出し時間から逆算して、収穫時刻を契約農家に指示して、調理場まで持って来させている。このようなことは一般消費市場では実現不可能だが、都市近郊の農家にとっては一考の価値がある。

(3)環境保全志向こそが究極の差別化
農薬や肥料の適正使用だけでなく、使用農薬や化学肥料の減少策の推進のように環境保全に対して負の影響軽減策だけでなく、炭酸ガスの吸収、洪水の防止などの積極的な正の側面があって、農業は農村だけでなく都市も含めた日本国土の環境保全に大きく貢献している。
逆に輸入農産物は、消費者が生活する日本国土の環境保全にはまったく貢献していない。国産農産物を買うことは、日本国土の環境を保全することにつながることを消費者に強く訴える。これこそが究極の差別化である。

2.販売チャンネル

(1)卸売市場の再編に対応するには共同化が不可欠
卸売市場の再編は、取引高の大きい卸売市場を残し、少ない卸売市場を統合ないしは廃止することによって補助金総額を減額することにある。市場外の青果問屋が、生産地と消費地の加工業者、外食産業、量販店を直接つなぐ市場外取引を増やしている。この動きを促進することによって流通経路の短縮合理化することになる。このため卸売市場の役割を、「近場農家の売り先の確保から離れ、遠隔地の生産地と消費地をつなぐ流通経路の一つ」として位置づけることも考えられる。

ところで、集落営農は小規模農業者を含む集団だが、他品種少量生産では、地場の農産物直売所での販売や量販店の産直コーナー向け、あるいは、地域の飲食店や学校給食などに納入している中小青果問屋向けに出荷することになるが、これで生産量が販売量を上回るならば、量販店や生協、外食産業向けに販売することを企図することになる。

量販店や生協、外食産業のばあい、いずれも品質や数量において販売先の要求に適うことが条件になるので、品目、品質、規格、数量がまとまるように共同化が必要になり、新しい経営感覚が求められる。

(2)小規模経営農業者にとって直売所などの効果は大きい
スーパーの地産地消コーナーや農産物直売所による「朝採り野菜」の販売は、小規模経営農業者にとって有力な所得確保の一手段になっている。農協に販売委託する場合は、小売店の店頭に並ぶまでに荷受、仲卸など複数の流通業者を経由し、小売側も平均30%前後の値入れをするので、包装費や運賃まで加味すると小売価格の半分以上を占める流通コストがかかる。これを削減して、農業者の所得に帰するものであるから合理的な販売手段と言える。それだけでなく、規格外品でも販売できることも含めて、農業者の収入のうち一定の効果があることは事実である。しかし、大規模経営農業者にとっては補足収入にはなるが、主たる収入の道にはなり得ないと考えられる。

(3)消費者直販は有効
消費者直販は流通コストを大幅にカットできるので、米作専業の小規模農業者が消費者直販で年収600万円を得ている事例がある。ただし、これには消費者と生産者を結びつける鍵になるものが必須である。鍵になるものとは、農場見学や交流などによる信頼関係の構築や、需要に対して供給が絶対的に不足しているもの(柑橘類の一種、クレメンティンはインターネットで完売された)という条件がつく。

3.消費者との交流で信頼感の醸成

このように競争力の強化や販売チャンネルの強化にも、消費者との交流は重要なファクターと言える。では消費者との交流はどのように進めたらよいのか。交流している事例は見聞するが、今から交流を進めるのに必要な仕掛けとは、どのようなものなのか、これについては、たとえばオーナー制度といって一定の面積とか立木(果樹)の消費者オーナーを年1〜3万円の負担をしてもらう約束で募集、負担に見合った各種のイベントを実施し、収穫物も差し上げる方法がある。自身の負担なしに交流ができ、積み重ねれば多くの消費者への販路も確立できる。(別途掲載の栃木県茂木町例参照ー編集部)

農産物直売店では、来店客(消費者)と直結関係にあるので、販売する農産物の「収穫体験イベント」を実施するのが定石となっている。例えば「さつまいも掘り体験―焼いも大会」で、食味しながら農家とのふれあい交流で、成果を挙げている事例が多い。直売所側で企画すれば、出荷農家と打ち合わせし、作物の栽培―収穫―おいしい料理法―食事の体験・・・と、地についた交流ができるのが強みである。そこには直接消費者が求める鮮度、品質、形、安心・安全性等が確認される場があり、農業者の生産努力が評価され、双方が信頼し合える場がある。

<蛇足> 高関税は手前勝手の言い分

国内で自給可能な農産物は米だけであることは、周知の事実。戦後、食生活の改善と言って、牛乳・乳製品、肉類を豊富にとることによって、国民の体格は欧米人に近づくことができた。反面、牛乳・乳製品、肉類を産み出す家畜の飼料は、内外の価格差によって輸入物で賄うようになった。これらの国内物の価格が高くなる理由は、飼料畑の経営面積が米国、豪州に比べて比較にならないほど狭いことによる。

国内で自給可能な米でも内外価格差は大きく、多額の関税によって守られている。とこが、日本の経済は貿易によって成り立っているのだから、外国に対しては自由貿易を主張し、外国からの自由貿易には高関税という障壁をつくることは手前勝手な主張になる。

農産物を自由貿易にすれば、今のままのばあい国内農業は崩壊することは自明のこと。また、世界の農産物生産が減少傾向にある中で世界人口は増加の傾向にあり、2020年には食料危機が訪れ餓死が発生すると予測されている。このため、日本の食料輸入危機も始まることが想定される。これに対応するには、農業経営の大規模化を推進する今の農政の基本方針に沿って、自給率アップにチャレンジすることが求められる。

 
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