先進農業探訪

先進農業事例

埼玉県日高市-サイボクのライフピア構想
-農業版デズニーランドをめざす憩いのオアシスー

今回紹介するのは埼玉県日高市下大谷沢にある「サイボクハム」で、正式名称・株「埼玉種畜牧場」である。農産物販売所や農村レストランを中心に村興ししていくときの「目指すべき高度な先進モデル」と言えそうだ。そしてサイボクハムは、ことし92才を迎えた笹崎龍雄会長(長野県出身、現・東京農工大学の獣医学科卒)の①ミートピア、②アグリトピア、③ライフピアと進化してきた農業のユートピア作りの「夢の舞台」である。
上記はそれぞれ①豊かな楽農文化、②美味しい食文化、③楽しい生活文化の創造を意味する。その基本コンセプトは「本物志向」と「オンリーワン」である。誰も真似できない本物の質を追求し、独自の創造でたえずオンリーワンの位置を保つ。そうすれば多くの人に支持され、競争もなく経営も繁栄する・・・という哲学である。


楽しいイラストで描かれた敷地全体の案内看板

1.年385万人が利用

日高市の牧場は敷地3万8,000坪だが、「牧場」と名がつくものの、現在は多くの豚や牛にはお目にかかれない。豚の生産基地は日高市鳩山町、宮城県栗原市(黒毛和牛も飼育)、山梨県早川町に移され、そこで「ゴールデンポーク」「スーパー・ゴールデンポーク」という最高の肉質の豚が年3万頭ほか肉牛が生産されている。これは環境問題もあるし、人の出入りが多くなれば、伝染病にもかかるのでやむおえないことである。
日高市下大谷沢の本部もある敷地には、豚肉の精肉やハム・ソーセージの加工場、直売スーパー、レストラン、カフェテリア、野菜・花・米を中心とした農産物販売所(地元生産者と提携)、天然温泉、ミニ・ゴルフ場、やすらぎ広場などがあり、全国から集められた数百本の銘木、数千の銘石も配置され、日常性と憩いを兼ね備えた一大レジャー施設である。
900~1000台の駐車場があり、ほとんど宣伝をしていないのに、土・日曜には2~3万人、年385万人が訪れる・・・とされ、埼玉の隠れた賑わいスポットである。土日は押すな押すなの盛況で、駐車場や公園風広場のベンチの空きを探すのにも苦労する。肉、野菜、米、茶、花など日常性も高いものを販売しているため、ほとんどがリピーターであり、観光気分で記念写真を撮っている人は皆無である。

2.その歴史と栄光

笹崎会長は復員後の昭和21年9月に「武蔵野エリア」の現在地にサイボクを創立、当初は牛、豚、鶏の品種改良の総合基地だった。昭和36~51年にかけイギリスやアメリカからランドレース、ハンプシャー、デュロックなどの豚の原種豚を入れ、日本における豚の品種改良をリードしてきた。農林水産大臣賞や多数の県知事賞も受賞している。改良の頂点近くにあるのが美味な「サイボク・ゴールデンポーク」である。これに黒豚を交えた最高品質のものが「スーパーゴールデンポーク」である。しかもこれまでに、全国に向け12万頭もの優れた種豚を供給し、実習生も気楽に引きうけ、養豚関係の研修生を国内外に2,000人も送り出している。
笹崎氏の著書は「楽農革命=アグリトピア」「生活革命=ライフピア」「わが輩は豚である」など16冊があるが、「実地経営・養豚大成」(養賢堂)は、再版50余回を重ね初版から40年に及ぶバイブル的なロングセラーとなり、中国でも翻訳されている。
本物志向とは、上記の改良しつくされた美味でヘルシーなゴールデンポークそのものと、これを原料とし、無添加・無着色で製造したハム・ソーセージなどの肉加工品、惣菜を意味する。ハム・ソーセージの本場ドイツのDLG(ドイツ農業協会)国際コンテストほかでハム・ソーセージ、調理食品で獲得した金メタルは平成19年までに448個に及ぶ。このほか調理人としてのメタルも獲得している。ドイツでは「肉生産からスタートして、良品作りをしているのがすごい」と称賛を受け、毎回客員審査員を送り出しているほど。
オンリーワンは①他にない優れた商品、②他に見られぬ生産―加工―販売―消費を一体化、③さらに他にない「やすらぎ」や「いやし」という精神的潤いまで付加した生活空間の創造性・・・によって発揮されている。

3.メインゾーンにはスーパーと飲食

施設と内容について、いま少し詳しく紹介しよう。メイン・ゾーには・・・
①豚肉+手作りパン中心の直売スーパー売り場(+食肉加工場や本部)=昭和50年に売り場6坪でスタートしたが、現在は実測で253坪、レジ6台。
②豚肉・牛肉中心のレストラン=平成4年に完成、300席。
③カフェテラスほか2軽飲食店、④ミートピア(子供さんの豚の絵など各種展示、地元工芸品などの土産品展示など)。
(1)スーパー部門の販売品 
全品自農場産の豚肉、牛肉、自家工場製ハム・ソーセージはセルフと一部対面で売られている。高品質のため「それなりに高い価格」であるが、客は競って買っている。スーパーゴールデンポークとなると100gロース390円、バラ270円、モモ260円、しゃぶしゃぶ用だとロース440円、バラ320円だが、無印(ゴールデンポーク?)ではロース390円、バラ・モモ肉スライス258円、ブロック198~208円。レバーブロック78円、同スライス94円、白モツ並78円、同上98円などもある。対面販売では豚100g188~390円、牛630~2,310円(黒毛サーロインステーキ)といった価格帯だ。
ハム・ソーセージの冷ケースだけでジャスト100尺に及び、フランクフルトほかのソーセージ、ハム、ベーコンなど加工肉の人気は精肉以上に高いが、これは種類も多く他店と品質が完全に異なるので、価格等の紹介は控える。
手作りパンも人気のコーナーである。最低限必要な加工食品も売られている。焼肉のたれ、ドレッシング、マヨネーズ、ソースなど調味品は「ミーと・ピア」のPBである。出口には氷も用意され、肉類を新鮮に持ち帰れるサービスを行っているのが目を引いた。レジ6台となると、常識的には年商10億円前後になるはず。253坪とすればすこぶる高い効率である。
サイボクは敷地内だけの販売が総てではない。ネットなどによる通販も活発に行っているが、東京と埼玉の市中にも3店の直営店を持ち、品格の高い丸広百貨店、ザ・ガーデン、クイーンズ伊勢丹など10店でも、ハム・ソーセージが販売されている。最近ではお歳暮ギフトのチラシが、10km圏くらいまで配布されてい様子である。


左手はレストラン棟。右手は加工場も付帯した直売スーパー部門棟


(2)レストランのメニュー 
レストランのメニューは実に豊富だ。レジャー施設の飲食関係のメニューやプライスを参考までに知りたい人もいるはずで、簡単に紹介すると・・・料理関係が約80品で、他に酒類、飲料、アイスなどが約25品で、計105品ほど。
名物のスーパーゴールデンポークの特製とんかくセット1,980円、同しゃぶしゃぶセット2,900円、ゴールデン・ポーク焼肉セット2,000~2,500円、和牛サーロインステーキ2,950~5,800円である。デラクス・メニューだけでなく大衆的な1,000円未満のものも単品で30品近くある・・・ライスまたはパン250円、焼きソバ360円、ポークウインナー420円、フランクフルト480円、コンソメスープ600円、野菜サラダ600円、豚肉しょうが焼き840円などだ。
1,000~1,500円未満のものが約15品で、特製ビーフカレー1,000円、ひれカツ、タンシチュー、ビクトリアカツレツ、特性とんかつがいずれも1,260円、ハンバーグステーキ1,300円、スペアリブグリル2本入り1,360円など。
(3)カフェテリア他のメニュー
またカフェテリア+2店のほうでは、安くて簡便な食事もできる。たとえば・・・ハムバガーセット480円、メンチバガーセット450円、フライド・ポテト、串とん、串レバー各120円、フランクフルト100円、ソフトクリーム250円、アイス170円、その他コーヒーやミルク、ウーロン茶などは100~150円、100%果汁ジュース類250円、もつ煮込み1皿300円、肉まん・あんまん各150円、厚切りステーキやレバー丸焼き300円、ソーセージやコラーゲン焼き1本200円などである。

4.農産物販売所ゾーン

①野菜や花の農産物直売所=昭和50年に「高萩生産者直売場」として開設されたが、販売が追いつかなくなり、平成11年に「楽農ひろば」として拡大改装、現在は実測によれば売り場178坪、レジ6台。
②米屋14坪、③果物店専門店、④狭山茶販売店、⑥広場やひょうたん池もあり、ジャンボなフランクフルト150円やスペアリブ350円のバベキューが売られている日もある。15キロ詰めの特製「豚糞堆肥」も売られている。
直売所は牧場で作った堆肥を供給し、良質の野菜を供給してもらうため、65戸の生産農家「楽心友会」を組織し、運営に当たっている。農薬、科学肥料を半分に抑えた県認証の「元気満彩」シールの貼られた品もある。レストラン等の野菜も、ここから総て調達している。90×180cmの平台換算にして、壁面まで入れ58台分もあり、半分は地元生産者の野菜、半分は仕入れ品で品ぞろえは豊富。1月の例だと壁面2段台のネギ、ダイコン、ニンジンなどは各9人が出荷し、2尺ずつ上下、上下と使って陳列しているほど大量販売している(1品18尺)。ホウレンソウ、コマツナも各5人ほどで各6尺の陳列。
たしか13%ほどの運営費がかかると聞いた(一般には15%)。他所の2つの農産物販売所の調査ではレジ3台で年4億5千万円であったから、レジ7台であれば楽に年10億円近くを売っているのではないか。お米も全国10軒の生産者と有機や特殊栽培品のみ、契約仕入れしているので評判が高い。


「楽農ひろば」はレジ7台の繁盛店だ

5.レジャー・ゾーン

①まきばの湯温泉、②陶芸教室、③パークゴルフ、④やすらぎ広場、⑤豚が数頭のみいるトントンハウス+アスレチック(子供さん対象の広場)からなる。
もともと牧場跡地であり敷地は広いが、ミニ・ゴルフ場ややすらぎ広場を除くと、比較的狭い範囲にコンパクトに配置されている。農、食、文化、やすらぎが融和したライフピア構想のため、多様な文化的な博物館ほか娯楽、趣味の施設もまだまだ作られるはずである。
「まきばの湯」温泉は地下2,000mから湧き出した天然温泉で、毎分922リットルの湯量のナトリュウム-塩化泉。露天風呂、「石の湯」という薬石ミネラルの浴室、「利楽」というマッサージ室、レストラン、軽食処、土産物屋まである本格的な総合温泉施設だ。入館料は大人1,500円、子供1,000円、幼児無料。午後6時以降は300円引き。「石の湯」は別途1,000円。
パークゴルフ場は1本のクラブでプレーするミニ・ゴルフ場。36ホールあるが、将来はさらに拡大の予定。毎月サイボクPG大会も開催されて100人以上が参加している。

6.ライフピアへの歩み

平成16年秋に某グループ仲間10人ほどで、加工工場とスーパー部門の視察に行った。笹崎会長は当時89才という高齢を押し約1時間30分近くも、ライフピア構想に至る氏のロマンを話してくれた。氏は何十回と世界各地を訪問しており、「宇宙船地球号の64億人の食糧問題、環境問題・・・等々」に至る実に幅広い話だった。購入希望者全員に、著書「ライフピア」に座右の言葉を沿え、署名したものをくれた。ユートピア創造の歴史を見ると・・・ 
(1)ミートピア時代
昭和51~平成2年にかけてであり、良質の豚肉、牛肉の生産をもとに、本物志向のハム・ソーセージの加工(2次産業)に手を染め、直売やレストランの経営(3次産業)に進み、生産―販売の一貫経営(氏が呼ぶ4次産業)を創造した時代である。
(2)アグリトピア時代
平成3~12年は、ミートだけでなくデリカ、加工食品、野菜、果物、花、飲食の総てを網羅した総合食品の生産・加工・直売・通販・レストラン・カフェテリアを一体化して、楽しい農業=楽農革命を推進した時代である。
(3)ライフピア時代
平成13年以降のこれから先を含む時代。農と食文化と生活文化を統合した「究極のゆとり=美・感・創・遊の景観・情緒も加味したオアシス(5次産業)の創造を進めつつある。目指すは農業デズニーランドである。4次産業、5次産業という言葉は普通使われないが、笹崎氏は「際崩しの時代」という。つまり1・2・3次産業の境(際)を崩し、一体化したとき、それが4・5次産業と呼ぶに値するものになるとの考えである。


全国の銘木・石を集めたひょうたん池ゾーン


(4)ライフピアの意味するもの
氏は「いま日本は、ハイテク化した成熟社会で、国民はこの限りない繁栄のなかで、放漫な日常生活を謳歌している」と批判精神も持ちながらも、「国民の誰もがさらに楽しさと、究極のゆとりを求めようと考えている。究極のゆとりとは何か。私は美・感・創・遊だと思う」としている。
そして食のグルメ時代から一歩前進し、生活全体を五感(視・聴・臭・味・触覚)で楽しむ時代になり、「遊」の要素がこれからますます求められる。そして「遊」とは①見て楽しい(視覚)、②やすらぎ(聴覚)、③いやし(嗅覚)、④味わい(味覚)、⑤触れる(触覚)のオアシス作りであるという。こうしたなかで、温泉とタイアップした研修施設、豚の博物館、図書館、花卉・観葉植物の温室、農林公園などの開設も予定されている。特に「豚の博物館」には期待したい。現在、サイボクに来ても多くの豚や牛に触れることができず、違和感を覚える。せめて博物館の中にボタンを押せば、豚や牛の普段の生活の映像が見れるようになれば、食育ほかの点で教育的価値が大きいはず。また「たとえ農業デズニーランドを目指すにしても、日常性も忘れず、価格だけは今のレベルで」の声も聞かれる。
(5)そしてエゴからエバの時代
笹崎氏は補助金に頼ることなく、強いロマンを持ち自力で今日を築いてきた。ライフピアは「対立・競争のエゴではなく、強調・互恵のエバの時代=自他両全・忘己利他の時代」としているが、氏自身が長らくこの哲学を持ち、実践し続けてきたのではないか。氏は著書の中で、各地に展開する農業ユートピアの胎動を多数評価し紹介しており、非常に謙虚である。決して唯我独尊に陥ってはいない。また「まず自分のために働け。そして俺なら何が出来るか考えよ」とも語っていた。
下記著書では農業と食に留まらず、環境問題ほかの社会、経済、政治、哲学など広い分野の生きた知識と、氏の考えが余すところなく収録され、見識の広さに敬服するばかりだ。

<参考>
「楽農革命(アグリトピア)」ビジネス社1,700円+税
「生活革命(ライフピア)」 ビジネス社2,000円+税(こちらが新しい)
HP 検索「サイボクハム」 メニュー別やその他料金も紹介されています。
(文責・HP編集部 近藤穣)